ヴァイオレット・アラベスク

 

 かつて、二千年以上前のルブリクス国でのこと。

 

 

 鋭い目つきの赤毛の男が、少女と向かい合って座っていた。

 少女は無邪気に問いかける。

「あなたは多重人格者なんだと聞いていたの。ミラの親友の『ウィストール』も、あなたの抱える人格のひとつなんだよね?」

「……それを誰から聞いた」

「ミラから」

 

 男――ヴィクトール・パルナンは、その答えに頭を抱えた。自分が多重人格者であることは、自分たちが苦労して隠してきた秘密だ。ミラにはとっくにバレているとはいえ、この少女に軽々と教えてしまうとは。

 

 しかし少女は、ヴィクトールの様子に構わず前のめりになって聞いてきた。

「あなたがどんな人生を送ってきたのか、教えて欲しいな。それに、アリソンやミラとの出会いも教えて!」

「――あくまで『俺たち』目線の話になるが……」

 

 そう前置きして、ヴィクトールは語った。

 

 彼の素性と、『彼ら』のことを。

 

インクまみれの紙片の目次